2017年に某大手不動産会社が西五反田の旅館の土地の売買で、地面師グループに約55億円をだまし取られた事件を元に作られたドラマ「地面師たち」の配信が、Netflixで始まりました。
タイトルにある「地面師」という言葉は多くの人にとって馴染みのない言葉ではないでしょうか。この記事では、地面師詐欺の手口から地面師が起こした事件まで詳しく解説します。
✓地面師詐欺のよくある手口
✓実際に起きた、5つの地面師事件の概要
✓地面師詐欺から、自分の土地を守る方法
地面師とは?
地面師の読み方は「じめんし」で、不動産詐欺を行う人のことを指します。
具体的には他人の土地や建物を自分のものだと偽って第三者に売ったり、担保に入れてお金を借りたりするのです。
地面師はグループで活動し、次のような役割分担をします。
項目 | 概要 |
リーダー |
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偽造書類作成 |
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偽の土地所有者 |
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仲介者 |
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(いる場合)不動産会社の内部協力者 |
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経理 |
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地面師は、それぞれの高い専門性を生かして詐欺的行為を行っていると覚えておきましょう。
地面師詐欺の手口とは?
地面師詐欺の手口には、次のようなものがあります。
- グループで役割分担をすることで、詐欺的行為の全貌をわかりにくくする
- 手付金を持ち逃げする
- 手数料を水増しする
- 仮契約と偽って本契約をさせる
- すでに購入者や所有者がいることを伏せて売る
- 実際には所有していない物件を売る
- 海外の実体のない物件を売る
- 価値が低い土地や物件を値上がりすると偽って売る
- 偽の所有者が土地を一度中間業者に買い取らせ、被害者を信用させてから売る
- 土地の売買契約をしたときに本人確認をした旨の公正証書を作成する
- 偽装売買だけではなく、正常な売買もしながら転売を繰り返す
- 別の取引で関係を深めたうえで、恩を売りながら土地の売買をする
- 弁護士や司法書士を巻き込み、被害者を安心させる
- (被害者が高齢者の場合)医療機関や偽の医師を介在させ、意思確認をしてから土地の売買をする
地面師詐欺の手口は多岐に渡り、全てを覚えるのは難しいですが、概要を知るのは被害の拡大を防止することにつながります。
地面師が起こした5つの事件
公益社団法人全日本不動産協会埼玉県支部と公益社団法人不動産保証協会埼玉県支部では、地面師の起こした事件の情報や防衛手段を含めた記事を掲載して注意喚起しています。
協会が取り上げた事件を中心に5つご紹介します。
1.某大手不動産会社地面師詐欺事件
2017年4月〜6月までに某大手不動産会社では、地面師グループに土地の偽所有者を本物と信じ込まされ、偽所有者から第三者経由で土地を購入できると考え売買契約を結びました。
不動産会社は、土地の売買代金として63億819万3,309円を支払い、約55億5,900万円の損害をこうむったのです。
この事件では地面師グループ10人が起訴され、2019年10月〜2020年6月までに東京地方裁判所で有罪判決が言い渡されました。
某大手不動産会社は、地面師詐欺にあった原因を次のように分析しています。
- 本人確認が不十分だった
- 決済時取引が真実か、疑問を持つ事象が複数あったにもかかわらず見逃した
- 縦割り組織によるセクショナリズムが起きていた
- リスク意識が希薄だった
- 内部統制が不十分だった
某大手不動産会社は再発防止策を立てて実効性の検証を行い、今後も新しい事例発生のたびに補うとしています。
事件後に組織として反省し、改善策を打ち出した点は企業として見習いたい姿勢だと言えるでしょう。
2.大手ビジネスホテル事件
2020年6月に、東京地方裁判所では大手ビジネスホテルから土地購入代金をだまし取ったとして、詐欺などの罪に問われた司法書士に対し懲役12年の判決を言い渡しました。
司法書士は地面師グループの他のメンバーと共謀して東京都港区赤坂の土地の所有者になりすまし、2013年8月6日に土地の売買代金として約12億5,500万円をだまし取ったのです。
土地の本当の所有者は、赤坂の土地を担保に借金をしたことはなく、駐車場として使用していました。
住んでいなかったため、地面師たちに狙われたと考えられています。
売買の現場に立ち会った業者らが「自分も被害者である」と主張したため、立件が難しいとされました。
しかし別の事件で、同じ司法書士が逮捕されことをきっかけに全貌が解明されたのです。
地面師詐欺にあうと立件するのが難しいので、詐欺を見抜くのが大事だと考えさせられる事件です。
3.某高級宅地事件
2021年12月に警視庁は東京の高級住宅地の地主になりすまし、土地売買代金をだまし取ったとして、男性2名を詐欺容疑で逮捕する方針としました。
2015年9月に2名は、高級住宅地内の土地約480m2を所有する男性になりすまし、都内の不動産会社から土地代名目で約6億5,000万円をだまし取った疑いをもたれたのです。
土地は更地であり、本当の地主は台湾に住んでいたため、地面師たちに狙われたと考えられています。
この事件では本人確認をするための印鑑証明書、パスポートが偽造されましたが、印鑑証明書に記載された生年月日や写真は、事実と異なっていました。
地面師詐欺を防ぐには、このようなわずかな違和感に気づくのが大切だと考えさせられる事件です。
4.5億円詐取事件
2017年12月に町田警察署は、土地売買を装い東京都内の不動産業者をだまして5億円を詐取したとして、男性4名を逮捕・拘留しました。
地面師事件では地面師が地主になりすますことが多いのですが、この事件では地主は本物で、仲介者が最終買取業者となる不動産業者から売買代金をだまし取るという手口が使われたのです。
また取引時、不動産会社に他にも競争相手がいるとにおわせ、取引を急がせたこともわかっています。
地面師詐欺にあわないようにするには、取引の流れの中でおかしいと感じることがあれば、その時点で時間をかけて内容を検討した方がよいとわかる事件です。
5.女性資産家失踪事件
2016年3月、推定15億円超の土地を持つ資産家の女性が突然失踪し、その後遺体で発見されるという事件が起こりました。
女性が亡くなる前には、本人が印鑑を押していないのに法律事務所から土地の売買を知らせる不審な電話があったり、2015年4月には本人が把握しないまま住所が変更されたりしています。
2020年3月に警視庁は土地の所有者になりすまし、土地代金の3,000万円を詐取したとして男女5名を詐欺や電磁的公正証書原本不実記録・同供用などの疑いで逮捕しました。
そしてこの事件には、某大手不動産会社地面師詐欺事件の犯人もかかわっていたことがわかったのです。
地面師詐欺にあわないようにするためには?
地面師詐欺にあわないようにするためには、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか。
5つご紹介します。
地面師に狙われやすい物件を知る
前の項目でもご紹介しましたが、地面師たちに狙われやすい物件にはどのような特徴があるかを知っておきましょう。
地面師に狙われやすい物件には次のような特徴があります。
- 所有者が特定しにくい
- 現在使用されていない(住んでいない)
- 所有者がその土地を担保に借金をしていない
被害者がお金を振り込むと相手方はすぐに逃げてしまうので、このような土地について取引をする際は支払い前に取引先を精査するのが大切です。
売主の本人確認を専門家と一緒に行う
前の項目でご紹介した地面師事件では、地面師たちが本人確認に使う印鑑証明書、パスポートなどを偽造していたことがわかっています。
証明書類が偽造されていると見抜くのは難しいので、売主の本人確認を司法書士や弁護士と一緒に行うのがおすすめです。
司法書士や弁護士が地面師グループの一員だった事件もあるため、ネットの評判などもよく確認し、信頼できる人に依頼するのが大切です。
売主に会う
地面師事件では土地の所有者に地面師がなりすまして取引を進めるケースが多いため、買主と何度も会うのをいやがります。
不自然に会ってくれない・売主に会わせるのを避けられているようであれば、売主が地面師であるもしくは、地面師の介入を疑った方がよいでしょう。
購入を急かされていないか注意する
地面師詐欺だけではありませんが、ご紹介した事件でも行われていたように購入を急かすのは、詐欺だと見抜かれないための常套手段です。
次のような理由で購入を急かされるようであれば注意が必要です。
- 他にも購入したい人がいると説明される
- 売主の事情で急ぎたいと説明される
自宅を訪問して急かされたときはその場ですぐに返事をせず、電話で急かされたときは一度切って折り返し、冷静に考える時間を稼ぎましょう。
不正登記防止申出を行う
登記識別情報とは、登記が完了した際に登記所から買主などの登記名義人に通知される12桁の英数字の組合せからなる情報です。
登記識別情報を取得した人が登記名義人になりすまして、不正な登記を行う可能性もあるため、登記名義人の権利を守る不正登記防止申出制度があります。
具体的には、申し出から3か月以内に不正な登記がされたら、登記名義人に対して法務局が知らせてくれるのです。
地面師詐欺に狙われやすい物件を所有している場合は、手続きをしておきましょう。
まとめ
地面師とは不動産詐欺を行う人のことです。他人の土地や建物を自分のものだと偽って第三者に売ったり、担保に入れてお金を借りたりする手口で詐欺的行為をはたらきます。
地面師詐欺の手口は多岐に渡りますが、今までの事件などを参考に狙われやすい物件を知り、対策を施しておくのが大切です。狙われやすい土地・建物を保有している場合は、早めに信頼できる司法書士・弁護士に相談しておきましょう。
なお地面師詐欺とも関連深い「投資詐欺」ですが、場合によっては被害にあったお金を取り返せる可能性があります。返金の可能性をあげる方法については、以下の記事を参考にしてください。