自己破産するとすべての借金(非免責債権を除く)を帳消しにできますが、誰でも免責許可が得られるわけではありません。本記事では、自己破産の申し立てをしても支払い義務が免除されない「免責不許可事由」に該当するケースを解説します。
免責不許可となった場合の対処法もお伝えしますので、一日も早く生活を立て直したい方はぜひ最後までご覧ください。
✓免責不許可事由に該当しても免責されるケース
✓免責不許可となった場合の対処法
自己破産の免責不許可事由とは?
免責不許可事由とは、裁判所に自己破産の申立てをしても免責許可が下りない事情のことをいいます。
免責が許可されると申立人は借金の支払いが免除されますが、債権者は「貸したお金が返ってこない」という不利益を被ります。なかには、最初から自己破産を前提として借金をする不誠実な債務者もいるため、裁判所は「破産を認めるべきでない、不当な事情がないか」を慎重に審査する必要があるのです。
こういった背景から、本当に借金で困っている人の生活を再建させるために、破産法第252条1項において「免責不許可事由」が定められています。「免責不許可事由」にあてはまると、自己破産の申立てをしても返済義務が免除されない可能性があります。
次項では、「免責不許可事由」に該当する具体的なケースを紹介します。
免責不許可事由に該当する10のケース
免責不許可事由に該当するケースとしては、次のような例があります。
- 虚偽の説明・陳述をした場合
- 業務・財産に関する帳簿や書類を隠ぺいした場合
- 浪費やギャンブルによって借金を増やした場合
- クレジットカードの現金化を行った場合
- 財産を隠したり他人に譲ったりした場合
- 支払い能力について債権者を騙した場合
- 違法な闇金業者からお金を借りた場合
- 返済において特定の債権者を優先した場合
- 裁判所や破産管財人の調査に協力しなかった場合
- 過去7年以内に免責許可を受けている場合
以下でくわしく解説します。
1.虚偽の説明・陳述をした場合
裁判所が行う破産手続きの調査において嘘の説明や陳述をした場合、免責不許可事由に該当します。自己破産の申立てをする際は、すべての債権者の名前や住所、債権額などを記載した「債権者名簿」を提出する必要があります。虚偽の債権者名簿を提出した場合も、免責不許可事由にあたります。
<例>
- ギャンブルが原因で借金したにもかかわらず「日常の出費が原因」と嘘をつく
- 家族や知人から借金しているが、迷惑をかけたくないため債権者一覧表に載せずにこっそり返済する
- 会社にお金を借りているが、自己破産したことがバレないよう債権者名簿に記載しない
故意に債権者名簿を偽造したわけではなく、単なる「記入漏れ」であっても原則として免責されません。ただし、申立人の過失が認められないとき(借金の存在を知らなかったなど)は、例外的に免責されることもあります。
2.業務・財産に関する帳簿や書類を隠ぺいした場合
業務や財産に関する帳簿や書類を偽造・隠ぺいした場合も、免責不許可事由に該当します。自営業やフリーランスの人はもちろん、給与所得者であっても副業している場合は、業務や資産状況を示す書類を提出しなければなりません。
<例>
- 売上をごまかすために売上帳や出納帳、決算書を偽装・隠ぺいする
- 所得をごまかすために確定申告書を改ざん・処分する
なお、故意に書類を改ざんしたわけではなく、申立人の知識不足によって帳簿に不備があった場合は、免責不許可事由にあたらないとされています。
3.浪費やギャンブルによって借金を増やした場合
収入に見合わないほどの浪費やギャンブル、射幸行為(※)が原因で借金を増やした場合も、免責不許可事由にあたります。
自己破産は、やむを得ない事情で借金が膨らんでしまった人が、生活を立て直すための手続きです。そのため、過度な浪費や賭博、射幸行為は免責に制限が設けられています。
※射幸行為(しゃこうこうい)とは、宝くじやパチンコなど、偶然の成功や利益をあてにする行為のこと
<例>
- 借金をしているのに1か月の飲み代に数十万円ほど使う
- キャバクラやホストクラブ、風俗店などへ頻繁に通う
- パチンコ・スロット・競馬などのギャンブルや、株・FXへの投資
- 頻繁に高級レストランで食事する・高級ブランド品を購入する
どの程度の浪費やギャンブルが免責不許可事由にあたるかは、収入や借金の総額などにもよります。しかし「月の収支がマイナスになるようなお金の使い方」であれば、浪費とみなされることが多いでしょう。
4.クレジットカードの現金化を行った場合
クレジットカードの現金化を行った場合、免責不許可事由になります。現金化とは、クレジットカードのショッピング枠で購入した金券や商品を換金ショップなどですぐに売却し、現金を手に入れる行為のことです。
<例>
- クレジットカードで新幹線の回数券やギフトカードを購入し、購入額よりも安い金額で売却する
- 現金にするため、クレジットカードでブランド品や高級カメラなどを購入してすぐに売却する
借金が返済できない状態に陥っているにもかかわらず現金化を行うと、クレジットカード会社に損害を与えてしまいます。また、クレジットカードの現金化をすると「財産を差し押さえられると困る」などの理由から、破産手続きの開始を遅らせる目的があったと認められる可能性もあります。
破産手続きの開始を意図的に遅らせると裁判所の業務が滞り、債権者も破産者の財産処分による配当が受けられない不利益を被ります。また、破産者にとっても、債権者に訴訟を起こされて給料を差し押さえられるなどのリスクがあります。
5.財産を隠したり他人に譲ったりした場合
自己破産をすると、住宅や車などの財産が換金されて債権者に分配されます。しかし、処分したくないからといって財産を隠したり他人に安く売却したりすると「不当に財産を減らした」とみなされ、免責不許可事由になります。
<例>
- 預貯金がバレないよう、家族の口座に移す
- 所有している不動産を処分されないよう、友人に安く売る
- お気に入りの車を取られたくないため、自分の子どもへ名義変更する
上記のような行為をすると債権者が受け取れるお金が減ってしまうため、免責不許可事由に該当します。
6.支払い能力について債権者を騙した場合
返済能力がないにもかかわらず「きちんと支払いできます」と債権者を騙してお金を借りると、免責不許可事由に該当します(自己破産の申立日の1年前から、破産手続開始の決定があった日までの期間が対象)。
<例>
- 最初から自己破産するつもりで借金をする
- 金融機関の融資審査で年収をごまかし、借り入れする
- 年収や資産等をごまかしてクレジットカードを作成する
返済のあてもなく借入れをすると「詐欺的な行為」とみなされ、免責不許可になるリスクが生じます。
7.違法な闇金業者からお金を借りた場合
貸金業の登録をせずに営業したり、出資法の上限金利(年利20%)を超える金利で金銭貸付を行ったりする闇金業者からお金を借りた場合も、自己破産の免責不許可事由にあたります。
<例>
一般的な金融機関から借り入れできる限度額に達したため、闇金からお金を借りる
本来なら「自力で返済できない」とわかった段階で、自己破産を検討すべきです。しかし、借入限度額に達したあとで闇金からお金を借りてしまうと「破産手続きの開始を遅らせようとした」とみなされ、免責不許可事由に該当します。
8.返済において特定の債権者を優先した場合
複数社から借金をしている場合、特定の債権者を優先して返済したり、一部の債権者にだけ返済したりすると免責不許可事由になります。
<例>
- 迷惑をかけたくないから、連帯保証人がついている借金だけ返済する
- 銀行からも借金があるのに、親や知人にだけ借金を返済する
破産手続きに関する法律「破産法」では、すべての債権者を平等に扱わなければいけないと定められています。特定の債権者を優先して返済を行う行為は、偏頗弁済(へんぱべんさい)として禁止されています。
9.裁判所や破産管財人の調査に協力しなかった場合
破産手続きにおいては、裁判所や破産管財人(破産者の財産を管理・処分する弁護士)がさまざまな調査を行います。このときに非協力的な態度を取ると、免責不許可事由になります。
<例>
- 破産管財人からの質問に答えない・指示に従わない
- 破産管財人等を脅迫する
- 破産管財人との面談に出席しない
- 必要な書類を提出しない
浪費やギャンブルなど、借金の理由によっては説明をごまかしたくなることがあるかもしれません。しかし、破産者には破産管財人の業務に対する協力義務があり、誠実な対応が求められます。
10.過去7年以内に免責許可を受けている場合
過去7年以内に自己破産をして免責許可を受けた場合、免責不許可事由になります。
また、個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類がありますが、過去7年以内に給与所得者等再生による再生計画の認可を受けている場合も、免責が認められません。
免責不許可事由に該当しても免責されるケース
これまで紹介した免責不許可事由に該当しても、裁判所の裁量によって免責が下りる場合もあります(裁量免責)。たとえば浪費やギャンブルなど明らかな不許可事由があっても、反省している姿勢を見せ、反省文を出せば免責許可が下りる可能性があります。
実際、日本弁護士連合会の『破産事件及び個人再生事件記録調査』によると、2020年に裁判所へ自己破産の申立てをした人のうち、免責許可が下りた割合は約97%です。
もちろん、誰でも自己破産が認められるわけではありませんが、裁判官や破産管財人の調査に対して誠実に協力することで、裁量免責が得られる可能性が上がります。借金の理由によっては、後ろめたい気持ちになるかもしれませんが、裁判所から質問されたときに嘘をついたり財産を隠したりしないようにしましょう。
免責不許可となってしまった場合の対処法
裁量免責が得られず、免責不許可になってしまった場合の対処法を2つ紹介します。
即時抗告(異議申立手続き)を行う
免責不許可になってしまった場合、即時抗告が可能です。即時抗告とは、免責不許可決定に対して異議申立てを行う手続きのことをいいます。即時抗告の申立ては、審判の告知を受けた日の翌日から、2週間以内に行う必要があります。
地方裁判所での免責不許可決定に納得がいかない場合、即時抗告することで高等裁判所にて再度審理してもらえます。
ほかの債務整理手続きを検討する
明らかな免責不許可事由がある場合、即時抗告しても結論が覆らない可能性が高いでしょう。この場合は、任意整理や個人再生、特定調停といった手続きを検討しましょう。
任意整理
借金額が少ない場合、任意整理が適している可能性があります。任意整理とは、裁判所を介さずに債権者との交渉によって、借金の返済負担を軽減する方法です。任意整理が成功すれば、将来利息のカットや遅延損害金の減免、月々の返済額の減額などが可能です。ただし、司法書士に任意整理を依頼する場合は、債権者1社につき借入額が140万円以内の場合に限られます。
個人再生
個人再生とは、裁判所に申立てることで借金を大幅に圧縮する手続きです。原則として、原則3~5年間で分割して返済できる金額まで減額されます。自己破産のようにすべての借金が帳消しになるわけではありませんが、住宅や家などの財産を残したまま手続き可能です。
特定調停
特定調停とは、裁判所の調停委員が債務者と債権者の間に入って話を聞き、双方が納得できるような和解を目指す手続きです。司法書士や弁護士に依頼しなくても自分で手続きできるため費用を安く抑えられますが、債権者が返済計画案に合意しなければ成立しません。
まとめ
「自己破産の免責不許可事由に該当していれば一切免責が下りない」ということはなく、裁量免責が受けられるケースもあります。
また、免責不許可になってしまっても、ほかの手続きによって借金返済の負担を軽減できる可能性があります。
そのため「自己破産を検討しているけど、免責不許可事由に該当している」という場合は、一度司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
丹誠司法書士法人では、債務整理に関する相談を受け付けています。
認定司法書士が一人ひとりの状況をお伺いしたうえで「ベストな手段は何か」「自己破産の免責許可が下りる可能性があるか」を判断します。
ただし、司法書士は自己破産の代理業務ができないため、書類作成のサポートや破産者へのアドバイスに限られます。
なお、自己破産を検討している方は、相談時に債権者情報や収支状況、資産状況などがまとまっているとスムーズです。お力になれるよう真摯にサポートいたしますので、ぜひ一度お話を聞かせてください。
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