借用書は、お金や物品の貸し借りがあったことを証明する重要な書類であり、金銭トラブルを防ぐために必要です。
ただし借用書には債務者の財産を差し押さえるほどの強い効力はなく、場合によっては借用書そのものが無効になることもあります。
本記事では、借用書の法的効力を解説するとともに、借用書が無効・取り消しになる5つのケースについて紹介します。
貸したお金を取り戻したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
- 借用書とはなにか
- 借用書の法的効力
- 借用書が無効になるケース
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借用書とは
借用書とは、金銭や物品の貸し借りをする際に、債務者(お金を借りた側)が債権者(お金を貸した側)に対して返済を約束する目的で作成する書面です。
借用書に決まった形式はなく、手書き・パソコン作成のどちらでも構いません。
ただし、借入日や借入額、返済期日、債権者と債務者の情報(氏名・住所・連絡先)といった最低限の内容を記載しておく必要があります。
また「上記金額を確かに借り受けました」などの文言を記載しておくことで、債務者に「お金は借りていない」「もらったものだと思っている」などと主張されるリスクを回避できます。
さらに、遅延した場合の規定も記載しておけば債務者の支払い意思が高まり、期限内での返済を促せます。
金銭消費貸借契約書との違い
一般的に、借用書は債務者が債権者に宛てる形で作成し、債務者のみ署名・押印したうえで債権者が保管します。
一方、金銭消費貸借契約書(きんせんしょうひたいしゃくけいやくしょ)は債権者と債務者の双方が署名・押印し、双方が1通ずつ保管するのが一般的です。
多くの場合、借用書は借入額や返済期日など最低限の情報が記載されるのに対し、金銭消費貸借契約書は利息や返済方法、連帯保証人の有無などの詳細な条件も明記されます。
債務者が一方的に作成する借用書よりも、債権者と債務者の双方が合意のうえで詳細に取り決めた金銭消費貸借契約書のほうが法的な証拠としての効力が強くなることがあります。
そのため、できれば詳細な内容が記載された金銭消費貸借契約書を作成しておいたほうが安心です。
借用書の有効期限(時効)
借用書そのものに有効期限という概念はありませんが、借用書があってもなくても「借金」自体に時効は存在します。
債権者が借金の返済を請求する権利(貸金債権)の時効は、以下のいずれか早いタイミングで成立します。
- 権利を行使できると知ったときから5年
- 権利を行使できるときから10年
借用書に返済期限を記載している場合は、原則として返済期限の翌日から5年が経過すると時効が成立します。
借用書の法的効力
続いて、借用書の法的効力や強制力の有無について解説します。
金銭や物品の貸し借りがあった事実を証明できる
借用書がなく口頭でお金の貸し借りをした場合でも債務者に返済の義務が発生します。
しかし、書面に残さないと「言った・言わない」のトラブルに発展するリスクがあります。
借用書があれば債務者が「借りていない」などと主張することを防ぎやすく、裁判でも「お金の貸し借りがあった」という事実を示す重要な証拠になります。
なお、当事者間の合意があれば、後から借用書を作成することも可能です。
ただし債務者が署名・捺印に応じない可能性もあるため、お金を貸す際に借用書を作成しておくのが望ましいでしょう。
財産の強制的な差し押さえはできない
借用書の記載どおりに返済されなくても、債権者は債務者の財産を強制的に差し押さえてお金を回収することはできません。
債権者が裁判を起こし、債務者に返済義務があると認められれば差し押さえなどの強制執行が可能ですが、そもそも債務者に財産がない場合は回収できないケースもあります。
借用書を公正証書にすれば裁判なしで強制執行が可能
借用書だけでは強制執行できませんが、公正証書にすれば裁判を起こさなくても強制執行が可能です。
借用書は個人が作成する私文書ですが、公正証書は公証人が法律に基づいて作成する公文書であり強い証明力を持ちます。
「返済が滞ったら強制執行を申し立てることを認める」という旨の執行認諾文言をつければ、債務者が支払いを怠った際に裁判なしで強制執行が可能になります。
ただし、公正証書の作成には手数料がかかるほか、当事者双方が公証役場に出向き、公証人の前で内容を確認して署名・押印するという手間もかかります。
借用書の意味が無くなる?5つのケース
借用書を作成しても、下記のケースでは無効もしくは取り消されることがあります。
- 債務者本人の署名・捺印がない
- 制限行為能力者と契約を結んだ
- 公序良俗に違反している
- 利息制限法の上限金利を超えている
- 記載された内容に錯誤がある
以下で詳しく解説します。
1.債務者本人の署名・捺印がない
借用書の最も重要なポイントは、債務者が自らの意思で借金をしたことを証明できるかどうかです。
借用書に債務者本人の署名や捺印がなければ、証拠としての効力が疑問視されてしまう可能性があります。
2.制限行為能力者と契約を結んだ
親権者の同意など、法律上必要な同意がなく制限行為能力者と契約を結んだ場合、状況によって契約が取り消される可能性があります。
<制限行為能力者とは>
- 未成年者:法律上18歳未満の人(契約時は親権者の同意が必要)
- 成年被後見人:障害などにより常に判断能力を欠く人(契約時は成年後見人の同意が必要)
- 被保佐人:障害などにより判断能力が著しく不十分な人(一定の重要な契約では保佐人の同意が必要)
- 被補助人:日常的なことは基本的に自分でできるが、障害などにより判断能力が不十分な人(家庭裁判所が必要と判断した場合、契約時に補助人の同意が必要)
上記に該当する方が一人で契約を結ぶと、不利な契約を結んだり損害を被ったりする可能性が高いため、法律によって保護されています。
なお、必要な同意を得ずに借用書を作成した場合でも、契約が当然に無効になるわけではありません。
後から取り消される可能性がある、というのが法律上の扱いです。
制限行為能力者と借用書を交わす場合は、必ずその同意権者にも署名・捺印してもらいましょう。
3.公序良俗に違反している
公序良俗(こうじょりょうぞく)に違反する契約は民法90条により無効とされており、借用書を作成していても効力がありません。
公序良俗とは、社会の一般的なルールや道徳的な価値観を指す言葉です。
たとえば、以下のような契約が公序良俗違反に該当します。
- 犯罪目的での貸し借り
- 返済のために違法行為を要求する契約
- 賭博に関連する契約
- 闇金からの借入
上記のような契約は法的に無効になるだけでなく、刑事罰の対象になる可能性もあります。
4.利息制限法の上限金利を超えている
借用書で利息や遅延損害金を定める場合、利息制限法の上限を超えてはいけません。
超過部分は無効になります。
個人と法人のいずれも規制の対象になり、友人や家族間のお金の貸し借りであっても、利息制限法を超える金利を取ることはできません。
<利息制限法の上限金利>
- 元本10万円未満:年20%
- 元本10万円以上100万円未満:年18%
- 元本100万円以上:年15%
あまりに高利息の契約をした場合、お金の貸し借りそのものが無効になる可能性もあります。
5.記載された内容に錯誤がある
金額など重要な部分に錯誤(さくご)があった場合、当事者はその意思表示を取り消すことができます。
錯誤とは、当事者の一方または双方が誤った認識を持ち、意思表示と内心に不一致が生じる状態です。
<錯誤の例>
- 100万円借りたつもりが、借用書に1,000万円と記載してしまった
- そもそも借用ではないのに、投資金の受け渡しの証拠として借用書を作成してしまった
ただし、錯誤によって取り消しが認められる場合は単なる勘違いや細かいミスではなく、契約の主要な部分に錯誤が存在する場合に限られます。
まとめ
借用書がなくても債権者は債務者に返済を要求する権利がありますが、借用書があればお金の貸し借りがあった事実を容易に証明でき、裁判でも有効な証拠になります。
ただし、借用書には債務者の財産を強制的に差し押さえる法的効力はありません。
より確実にお金を回収するためには、借用書を公正証書にする選択肢も検討しましょう。
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