※こちらの記事は2023年12月1日時点の法律等にもとづいて書かれています。
普段は、詐欺被害にあわないための注意点や詐欺にあわれた方へ向けて記事を書いていますが、今回は少し趣旨が違うものを書いています。
『気付かぬうちに犯罪者になることが無いように』というものです。
知らなかった・聞いてなかったでは済まされないのが法社会。
法律に反することを行えば、たちまち処罰対象となってしまいます。
詐欺被害とは別に起こる問題
丹誠司法書士法人は、消費者トラブル・相続・遺言・後見業務を取り扱っております。
この中の消費者トラブル、おもに詐欺被害に関するご相談やご依頼をいただきお話をお伺いしている中で、法律に抵触することに関わってしまっている方も多数いらっしゃいます。
つまり、犯罪行為に該当するおそれのあることに関わっている、ということです。
稀ではありますが、一年のうちに数回は耳にする言葉。
『口座売買(譲渡)』
悪質出会い系詐欺サイトやスマホ副業詐欺などでの被害者(様)の中で、知らぬうちに口座売買(譲渡)を行い、加害行為に加担しているケースが実際にあります。
「報酬を支払うから、仮想通貨の預入口座を開設してほしい」
「副業の実行に伴う給与支払で口座情報を教えてほしい」
などと「言われるがままに」情報をわたしているケースもあれば、
「個人情報を伝えたところ勝手に口座開設されていた」
「遠隔操作で情報を渡してしまった」
など知らぬうちに個人情報を悪用され口座を悪用されてしまう被害者様も多いです。
また、金銭を受け取って口座情報を渡してしまう方もいます。
例えば「ひとつの口座につき●●万円で買うから売って欲しい」と言われ、売ってしまうということです。
そして近頃では「収納代行会社を法人設立して副業として稼がないか?」と誘われている方も増えています。
では実際にどのような手口で口座売買(譲渡)をしてしまう人がいるのでしょうか。
実際の相談事例から解説いたします。
口座売買(譲渡)をそそのかされる手口とは
口座を売ったり譲り渡したりしてしまう、というのが口座売買(譲渡)です。
口座売買(譲渡)を持ちかけられるというのは、一般的なことではありません。
これは犯罪行為に該当する可能性が非常に高いことをご理解いただきたいです。
たいていの人は、その存在を知っていても関わることが無いまま一生を終えます。
それでも、何かのきっかけで身近な存在になることがある。
違法薬物と近しいと考えます。
目先の報酬に目がくらみ、ご自身の口座を他人に渡してしまうということは、得られる報酬以上に社会的信用も含めて払うべき代償が大きいのです。
どのようなきっかけで口座売買をすることになってしまうのか、いくつか例を上げます。
悪質出会い系詐欺サイト経由
悪質出会い系詐欺サイト経由で口座売買(譲渡)に関わることになってしまうケースは数多くあります。
そして冒頭で紹介させていただいた手口の他、「報酬を渡すから、法人の代表になってほしい」などと言われ、いわゆる「名義貸し行為」を行い、口座開設から悪用されるパターンも存在します。
スマホ副業詐欺経由
また、スマホ副業詐欺を経由した口座売買(譲渡)のケースも種類が多いです。
その中で「この副業アプリを使うにはまず口座情報と銀行カードを渡さないといけない」などと言われることがあります。
高額な副業プランを購入したあとに『口座情報を渡さないと副業を始められない』と半ば脅すような形です。
副業として紹介された「収納代行会社の設立」
スマホ副業詐欺経由とちかしいのですが、この場合は法人設立をすることを求められますから、少し手口が異なります。
「長期で稼げる」「法人設立をするから税金対策にもなる」「社長になれる」などと言われ、法人名義の口座開設をするところから始まります。
そして開設した口座を詐欺業者に渡します。
この時点で譲渡しているわけですから、法律に抵触していることになります。
副業とうたっているため、数回にわたり報酬を渡すまでが詐欺業者のセオリーです。
途中から収入を得られなくなり、そこで初めて「詐欺にあったのではないか」と気づかれる方が多いです。
また、報酬を受け取っていると、その詐欺行為に完全に加担していたと検察・警察から認識されることもあります。
このときは、口座売買(譲渡)に関する法律以外の法律に抵触しているとされる可能性があります。
お金を受け取っていないのに毎月返済する義務が!?
「急に法律事務所から50万円の返金を命令される文書が届いた」
この時点でのご相談やご依頼がほとんどです。
口座売買(譲渡)をおこなった時点でご相談される方はほとんどいないと言っても過言ではないでしょう。
法律事務所から届く実際の書面内容を要約するとこのようなものです。
詐欺業者の指示の元あなた名義の口座に支払を行った。
錯誤のうえAさんが支払した金50万円については、●法●条●項に基づき、契約の取消を行う。
そのため、あなたが受領された金50万円はAさんへの返還義務が生じている。
よって、〇年〇月〇日までにこの金50万円を返金してください。
応じない場合は民事訴訟並びに刑事告訴等の法的措置を検討いたします。
一般の方が急に司法書士等から「法的措置をとる」などといった内容の手紙を受け取られた際には、非常に驚かれると思います。
しかしながら、これには応じないといけない可能性も存在します。
いかなる金額であったとしても、です。
払える払えないといった事情は一切関係ありません。
「私はお金を一円も受け取っていないのだから支払いたくないし、支払う必要も無いはずだ」と思っても、それは払わなくても良い理由にはならないのです。
被害者が法律家(認定司法書士や弁護士)に依頼していれば、自宅に書面が届き、返金請求をされる可能性が充分に考えられます。
被害届が出されていれば、警察署から連絡が来て、出頭を命じられることがあります。
逮捕され、刑事罰が課せられる可能性もあります。
しかも、被害者が複数いる場合、そのすべての人に返金をしないといけません。
例えば5人の被害者がいてそれぞれが50万円ずつ振り込んでいたら…?
あなたには総額250万円の返還義務が発生する可能性があります。
それに、この連絡はすべてが同じタイミングで来るものではありません。
詐欺被害にあい、実際に被害者が法律家(認定司法書士や弁護士)に依頼をした時に来ます。
忘れた頃にやってくるのです。
実際に詐欺行為を行っていなかったとしても、詐欺行為に使われた口座の名義があなた自身であれば、民事的には返金することを求められますし、以下の条文を根拠とし、刑事的に罰せられる可能性も高くなります。
口座売買(譲渡)は、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」で禁止するとされています。
犯罪による収益の移転防止に関する法律の目的
第1条 この法律は、犯罪による収益が組織的な犯罪を助長するために使用されるとともに、これが移転して事業活動に用いられることにより健全な経済活動に重大な悪影響を与えるものであること、及び犯罪による収益の移転が没収、追徴その他の手続によりこれを剝奪し、又は犯罪による被害の回復に充てることを困難にするものであることから、犯罪による収益の移転を防止すること(以下「犯罪による収益の移転防止」という。)が極めて重要であることに鑑み、特定事業者による顧客等の本人特定事項(第四条第一項第一号に規定する本人特定事項をいう。第三条第一項において同じ。)等の確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置を講ずることにより、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号。以下「組織的犯罪処罰法」という。)及び国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号。以下「麻薬特例法」という。)による措置と相まって、犯罪による収益の移転防止を図り、併せてテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施を確保し、もって国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与することを目的とする。出典:「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(2023年12月1日閲覧)
要約すると、『口座の売買や譲渡・譲受は、その口座を使ってお金を管理することができるため犯罪組織が運営していくことを手伝ってしまう、つまり犯罪を行うことを助長させてしまう』ため、禁止されたのです。
犯罪による収益の移転防止に関する法律が適用され有罪判決が出された場合、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、または両方が科せられます。
口座を買ったり悪用したりして使用した者だけでなく、売るなどして他人に使用させた者も同様に刑罰を科せられます。
犯罪による収益の移転防止に関する法律の罰則
第28条 他人になりすまして特定事業者(第二条第二項第一号から第十五号まで及び第三十七号に掲げる特定事業者に限る。以下この条において同じ。)との間における預貯金契約(別表第二条第二項第一号から第三十八号までに掲げる者の項の下欄に規定する預貯金契約をいう。以下この項において同じ。)に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として、当該預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報その他特定事業者との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けるために必要なものとして政令で定めるもの(以下この条において「預貯金通帳等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
2 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。出典:「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(2023年12月1日閲覧)
また、そもそも他人に渡すことを目的として口座を開設し、譲渡していたとしたら、口座開設を行った銀行が被害者として詐欺罪にも該当する可能性があります。
詐欺罪
第246条1項 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。出典:「刑法」(2023年12月1日閲覧)
本来、「自身の」「貯蓄のため/給与振り込みのため」という理由で口座開設を依頼します。
譲渡や売買が目的の場合は、正直な理由を言うと銀行から開設を断られます。
そのため、理由を偽って開設することとなります。
つまり、①嘘の理由を述べて銀行をだまし、②銀行口座を開設させるという行為が、この詐欺罪に当たるということです。
詐欺罪が適用され有罪判決が出された場合、10年以下の禁固刑が科せられます。
犯罪による収益の移転防止に関する法律のときとは異なり、罰金刑ではないので非常に重い犯罪であることがわかります。
実際に売ったこと・譲り渡したことがある方、検討している方へ
あなた自身がお金を受け取っているかいないかは、一切関係ありません。
それは口座を渡したときもそうですが、その口座にお金が振り込まれたときも同様です。
'あなたの口座が使われた'という事実が、犯罪行為に加担していることになるからです。
厳しいことを言いますが、あなたが口座を他人に渡さなければ、詐欺被害にあう人はいなかったからです。
これは紛れもない事実です。
売ることを検討している方は、いますぐ考えを改めてください。
もし既に口座売買(譲渡)をしてしまった方は、いますぐに丹誠司法書士法人にご相談ください。
ご相談はいつでも無料です。
丹誠司法書士法人にご相談いただければ、こちらの対処の準備があります。
ご依頼いただければ、これからの動きや為すべき対処など、具体的に細かくお伝えすることができます。
一秒でも早く、みなさんが不安な気持ちを解消できるよう事務所員一丸となって努めてまいります。