身近な金銭トラブルを裁判で解決したいときは、「少額訴訟」の利用がおすすめです。
通常訴訟と比較すると手続きが比較的簡易なので、自分ひとりで対応しやすいです。
ただし、利用にあたっては注意点もあります。
少額訴訟に関する正しい知識を事前に身につけて、適切に手続きを進めることが重要です。
本記事では、少額訴訟の基本から、自分で手続きを進めやすいケース、手続きの流れ、費用などを解説します。
- 少額訴訟と通常訴訟の違い
- 少額訴訟の流れ
- 少額訴訟にかかる費用
- 少額訴訟の注意点
以下の記事では、少額訴訟を司法書士に依頼するメリットや費用相場について詳しく解説しています。
少額訴訟の手続きを検討している方は、ぜひご覧ください。
少額訴訟は自力でも行えますが、司法書士に依頼することで手間を大きく軽減でき、勝訴の可能性も高まります。 本記事では、少額訴訟を司法書士に依頼するメリットや費用相場、訴訟を成功させるポイントを解説します。 少額の金銭トラブルを速や[…]
少額訴訟とは?
少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて、原則1回の審理で紛争解決を図る簡易な裁判手続です。
たとえば、貸したお金が返ってこない、商品代金を支払ってもらえないなど、比較的身近な金銭トラブルに利用されます。
審理は当事者と裁判官により行われ、証拠書類や当事者の主張などが確認されます。
審理終了後、その日のうちに判決が言い渡されるため、スピーディな解決が期待できます。

少額訴訟と通常訴訟の違い
少額訴訟と通常訴訟の主な違いを3つ紹介します。
- 金額に制限があるかどうか
- 審理・判決までの期間
- 判決に対する不服申立ての方法
金額に制限があるかどうか
通常訴訟は、請求金額に上限はありません。
一方、少額訴訟は「60万円以下の金銭の支払い」を求める場合に限り利用できます。
これは、「金銭請求」に限定されており、たとえば商品の返還や建物の明け渡しといった請求には使えません。
知人間のお金の貸し借りや未払い賃金の請求など、比較的少額の金銭トラブルが主な対象です。
審理・判決までの期間
通常訴訟では複数回の弁論期日が設けられるので、解決までに時間を要するのが一般的です。
判決が下されるまでに、1年以上かかる事案も珍しくありません。
一方、少額訴訟では原則として審理が1回で終了し、即日判決が下されます。
裁判所に何度も出向く必要がないため、時間や手間をかけにくい方にとっては少額訴訟のほうが利用しやすいでしょう。
判決に対する不服申立ての方法
通常訴訟の判決に不満がある場合は、第一審の判決に対して「控訴」や「上告」といった形で不服を申し立てることが可能です。
一方、少額訴訟では、控訴や上告が認められていない代わりに「異議申し立て」という制度があります。
相手方が判決に対して異議申し立てを行うと、通常訴訟に切り替わり、再度裁判が行われます。
少額訴訟で勝訴しても、相手方が異議を申し立てれば解決までに時間がかかる可能性もある点には注意が必要です。
少額訴訟を自分で進めた方が良いケース
少額訴訟では弁護士や司法書士に手続きを依頼できます。
しかし、手続きが比較的簡易なので自分ひとりでも進めやすいです。
実際、日本弁護士会が発行する「弁護士白書 2024年度版」によると、弁護士や司法書士を代理人として付けずに自分で少額訴訟を行った人の割合は「86.3%」を占めました。
もちろん、すべてのケースで弁護士や司法書士のサポートが不要というわけではありませんが、次のようなケースでは、本人のみで手続きを進めても大きな支障は出にくいでしょう。
相手も弁護士を立てていないケース
相手方が代理人を立てていない場合、当事者同士が対等な立場で主張しやすく、法律の専門知識がなくても十分に対応可能です。
一方で、相手に弁護士がついていると、法的な主張や証拠の差が生じる場合があり、事前準備をしていても、裁判官に自分の主張が正しく伝わらないかもしれません。
証拠が揃っていてトラブルの内容がシンプルなケース
少額訴訟は事実関係や証拠が明確で法的争点が少ない案件に向いています。
たとえば、「貸したお金が返ってこない」「商品を購入したが届かない」というようなトラブルで、やり取りの履歴や領収書などの証拠が揃っている場合、自分で証拠を整理して訴状を作成するのもそれほど難しくありません。
裁判所のホームページでは、訴状の書式や記入例が公開されています。
初めての方は用語などに戸惑うかもしれませんが、見本を参考にすれば法律の知識がなくても準備できるでしょう。
少額訴訟の流れ
少額訴訟の流れを6つのステップに分けて詳しく紹介します。
1.訴状の作成
まずは訴状を作成します。
訴状とは、裁判を起こす人(原告)が、自らの主張や請求内容を記載して裁判所に提出する書類です。
訴状には主に以下の内容を記載し、附属書類(証拠となる文書の写しなど)を添付します。
- 原告と被告の氏名・住所
- 請求の趣旨(「被告は原告に対し、金◯◯◯円を支払え 」など)
- 請求の原因(「原告は被告に対し、令和◯年◯月◯日、金◯◯◯円を貸し付けた」など)
なお、訴状の書式は、裁判所のホームページからダウンロードできます。記載例も掲載されているので、ご参考ください。
2.訴状の提出
訴状が完成したら、被告の住所地を管轄する簡易裁判所に提出します。
方法は「持参」と「郵送」の2つです。
裁判所へ直接持参する場合
裁判所の窓口に提出すると、その場で不備の確認や手続きの説明を受けられることがあります。
ただし、窓口の受付時間は基本的に平日のみで、時間は各簡易裁判所によって異なるため注意が必要です。
郵送で提出する場合
遠方に住んでいる方や平日に裁判所へ出向く時間がない方は、郵送での提出がおすすめです。
送付の際は特定記録郵便や簡易書留などの配達記録が残る方法で送付しましょう。
郵送で提出する場合は封筒の表に「少額訴訟事件」と朱書きし、以下の書類を同封します。
- 訴状(正本・副本 各1通)
- 証拠書類(正本・副本)
- 収入印紙(訴額に応じた金額)
- 予納郵券(裁判所指定の切手)
- 返信用封筒(自分の氏名・住所を記載し切手を貼付する)
提出後、不備があれば裁判所から連絡が入りますので、定められた期限内に修正し再提出する必要があります。
3.期日の連絡
訴状が裁判所に受理されると、概ね2週間前後で原告と被告双方に「期日呼出状」などの書類が送付されます。
呼出状には、口頭弁論期日の日時と場所が記載されています。
期日は、訴状提出から1〜2か月後に指定される場合が多いです。
4.事前聴取
事前聴取として、審理の前に裁判所から連絡が来る場合があります。
この場合、追加証拠書類の有無や提出を求められたり、証人の有無や氏名・住所・証言予定の内容を確認されたりします。
また、和解で解決する意向があるかどうか、具体的な和解条件の確認も行われます。
手続きをスピーディーに進めるためにも、事前聴取にはきちんと対応しましょう。
5.答弁書の受領
相手方が、裁判所に自分の主張を記載した「答弁書」を提出します。
答弁書は、裁判所から原告にも共有されます。
答弁書には以下のような内容が記載されています。
- 請求に対する認否
- 被告側の主張とその理由
- 通常訴訟への移行希望の有無
- 提出予定の証拠
反論準備や今後の対応を検討するためにも、答弁書を受け取ったら内容をしっかり確認しましょう。
6.審理・判決
指定された日時に裁判所へ行き、審理を受けます。
所要時間は、一般的に30分〜2時間程度です。
審理では、裁判官が当事者の主張や証拠を確認・整理します。裁判官の質問には、できるだけわかりやすく、自分の言葉で冷静に答えましょう。
審理が終わると、原則としてその日のうちに判決が言い渡されます。
少額訴訟の費用は?
ここからは少額訴訟の費用相場について解説します。
自分で行う場合
少額訴訟を自分で行う場合でも、裁判費用を支払わなければなりません。
費用は、主に「収入印紙代」と「予納郵券代」の2種類です。
収入印紙代
訴状を提出する際、申立手数料として訴額に応じた額の収入印紙を納付します。
印紙代の目安は以下のとおりです。
請求金額(訴額) | 収入印紙代 |
10万円まで | 1,000円 |
20万円まで | 2,000円 |
30万円まで | 3,000円 |
40万円まで | 4,000円 |
50万円まで | 5,000円 |
60万円まで | 6,000円 |
予納郵券代
予納郵券とは、申立人があらかじめ裁判所に提出する切手です。
裁判所が相手方へ訴状や呼出状を送付するときや、判決文などを当事者へ送付するときに使用されます。
郵券の金額や組み合わせは管轄の裁判所によって異なりますが、1件あたり3,000円〜5,000円程度が目安です。
司法書士に依頼する場合
少額訴訟は、認定司法書士にも依頼できます。
認定司法書士であれば、簡易裁判所が管轄する請求額140万円以下の民事事件の代理人となれます。
司法書士に依頼する場合は、裁判費用に加えて司法書士費用が発生します。
以下、費用相場をまとめました。
項目 | 内容 | 費用相場 |
相談料 | 相談時に発生する費用 | 30分~1時間あたり5,000円程度 |
着手金 | 依頼後、案件へ着手する際に発生する費用 | 3万円~6万円程度 |
訴状作成料 | 訴状の作成のみ依頼する場合に発生する費用 | 3万円程度 |
少額訴訟代理費 | 訴訟手続きを一任する場合に発生する費用 | 3万円程度 |
簡易裁判所訴訟代理費 | 訴訟代理人を依頼した場合に発生する費用 | 5万円程度 |
期日日当 | 裁判所への同行を依頼する場合などに発生する費用 | 1万円程度 |
出張・現地調査費 | 現地調査や出張を伴う場合に発生する費用 | 実費 |
成功報酬 | 依頼者が得た成果に応じて支払われる報酬 | ・訴状作成のみ依頼した場合:回収額の8~10%程度
・手続き代行を依頼した場合:回収額の15%程度 ・訴訟代理人を依頼した場合:回収額の15%~20%程度 |
弁護士に依頼する場合
少額訴訟は弁護士にも依頼できます。
弁護士に依頼する場合は、裁判費用に加えて弁護士費用が発生します。以下、費用相場をまとめました。
項目 | 内容 | 費用相場 |
相談料 | 相談時に発生する費用 | 30分~1時間で5,000円程度 |
着手金 | 依頼後、案件へ着手する際に発生する費用 | 訴額の5~10%程度 |
報酬金 | 依頼者が得た成果に応じて支払われる報酬 | 回収金額の10~20%程度 |
その他費用 | 出張料・交通費・日当・旅費・宿泊費など | 実費(数千円〜数万円) |
費用倒れを防ぐには弁護士・司法書士へ相談しよう
少額訴訟では「費用倒れ」にならないよう注意が必要です。
費用倒れとは、経済的な利益を得るために支払った費用が得られた利益を上回ってしまい、結果的に損をしてしまうことです。
たとえば、次のようなケースでは費用倒れに陥るリスクが高くなります。
- 事案が複雑で、少額訴訟では対応しきれない内容である
- 調査や証拠収集に予想以上の費用がかかる
- 被告に支払い能力がないため、勝訴してもお金の回収見込みが立たない
- 被告の希望によって通常訴訟に移行し、手続きが複雑化・長期化する
費用倒れを防ぎたい場合、まずは弁護士や司法書士に相談しましょう。
経験豊富な弁護士や司法書士であれば、費用対効果や手続きの見通しを丁寧に教えてくれます。
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少額訴訟の注意点は?
少額訴訟には迅速・簡易な手続きといったメリットがある一方で、注意点もいくつか存在します。
しっかりと確認しておきましょう。
1.相手方の住所を知らないと利用できない
少額訴訟では、相手方へ訴状や呼出状、判決文などを送達する必要があります。
そのため、相手の住所がわからないと手続きを始められません。
ネット上の取引などで「相手の名前しか知らない」「連絡先がメールアドレスだけ」といった場合は、まず相手方の住所を調べる必要があります。
2.利用回数の制限がある
少額訴訟は、同一の簡易裁判所につき1人あたり年間10件までの制限があります。
個人であれば問題になることは少ないですが、貸金業者など複数の債権を回収する事業者が利用する場合は注意が必要です。
10回を超える場合は、通常訴訟での提起が必要です。
3.事前準備が重要になる
少額訴訟では、原則として1回の審理で判決が下されます。
つまり、1回の審理で自分の主張を伝え、相手の言い分に反論する準備をしておかなければなりません。
「証拠を揃えておく」「説明したい内容を整理しておく」といった準備が足りないと、思うような結果が得られない可能性があります。
4.相手方が代金を支払ってくれるとは限らない
勝訴判決を得たとしても、相手方がすぐにお金を支払ってくれるとは限りません。
このような場合、「少額訴訟債権執行」という特別な手続きを利用すれば、相手方の給与や預金などに対する強制執行が可能です。
ただし、強制執行を行うためには改めて一定の手続きや費用が発生するため、利用するかどうかは慎重に判断しましょう。
少額訴訟をスムーズに進めるなら、丹誠司法書士法人にご相談ください!
少額訴訟は、少額の金銭トラブルを解決したいときに利用できる制度です。
しかし、相手の住所が分からないと手続きができない、勝訴しても支払いが行われるとは限らないといった注意点もあります。
また、手続きが比較的簡易といっても、証拠の整理や書類作成、裁判所への提出など、自分だけで進めるには不安が残る方も多いでしょう。
丹誠司法書士法人では、経験豊富な認定司法書士による少額訴訟のサポートを行うことが可能です。
手続きに関する不安を解消したい方は、まずは一度ご相談ください。